東京高等裁判所 昭和31年(う)1236号 判決
被告人 林寿之助
〔抄 録〕
記録を調査すると、本件起訴状の直ぐ次に勾留状、逮捕状及び逮捕状請求書が編綴されていることはまことに所論のとおりである。所論は、「右のように勾留状、逮捕状及び逮捕状請求書を起訴状に添付するのは刑事訴訟法第二五六条第六項、刑事訴訟規則第一六七条第一項、第三項に違反するものである」と主張する。そこで、刑事訴訟規則第一六七条第一項をみると、「検察官は、逮捕又は勾留されている被告人について公訴を提起したときは速やかにその裁判所の裁判官に逮捕状又は逮捕状及び勾留状を差し出さなければならない」と定められ、同条第三項には「裁判官は、第一回の公判期日が開かれたときは、速やかに逮捕状、勾留状及び勾留に関する処分の書類を裁判所に送付しなければならない」との規定があり、また同規則第一八七条第一項は「公訴の提起があつた後第一回の公判期日までの勾留に関する処分は、公訴の提起を受けた裁判所の裁判官がこれをしなければならない。但し、事件の審判に関与すべき裁判官は、その処分をすることができない」と定められていることが明らかである。而して叙上の諸規定を比較対照して考えてみると、起訴状に勾留状や逮捕状もしくは逮捕状請求書を添付することは刑事訴訟法第二五六条第六項所定の予断排除の原則に違反するのではないかとの疑が存しないでもないが、さらに仔細に検討すると、叙上のような書面は、被告人が逮捕され、現に勾留されている事実を示すにとどまり、その事件や犯情そのものに関係のある特段の記載は存在しないものであるから、それらの書面は必ずしも裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書面であるということはできないのみならず、一定の場合には勾留処分をした裁判官がその事件につき審判をすることさえ許されている点などからみると、叙上の書面を誤つて起訴状に添付しても、それは予断排除の原則に反するものではないと解するのを相当とする。要するに、起訴状に勾留状、逮捕状、逮捕状請求書を添付した本件起訴手続はやや妥当を欠く憾みはあるけれども、未だ以て刑事訴訟法第二五六条第六項に違反するものとは即断し難いから原審の訴訟手続には所論のような違法の点は存在せず、従つて本論旨もまた理由がない。
(花輪 山本 下関)